『水の声を聞く-プロローグ-』レビュー!!

シネマインパクト主宰・山本政志監督の『水の声を聞く-プロローグ-』についてのレビューを、キネマ旬報等で活躍の寺岡ユウジさん(映像作家・映画ライター)に書いていただきました!!


(写真:『水の声を聞く』主演・玄里、撮影:内堀義之)


傷ついた魂に水の声は、届くのか?

寺岡ユウジ


水の妖しさに、誘われた。
 日頃、喉を潤し、手や食器を洗い、熱して肉や野菜を煮たり、熱したそれをシャワーから浴びて身を清めている。水、あの水。常日頃生活のなかで当たり前に接している水が、映画『水の声を聞く-プロローグ-』の中で、みたこともない妖しさを放っている。
マンションの一室にある水槽の中で、水が、女性のからだがもつ線そっくりな曲線で波をつくり、それが、もっとも淫らな音楽のような非周期的なリズムで波打ち、反映した人物の影をゆらゆらと溶かしてゆく。
 ありきたりなものが、カメラにうつしとられて、大画面に映写されると、ありきたりさを脱ぎ捨てて、みたこともない姿かたちをみせて、ものとの馴れあいを崩し、感覚をがびんがびんと刺激する。映画をみることのはじまりにあるよろこびは、そんなところにあるのかも知れない。
 うつしだされる水の打つ脈に意識をもってゆかれたが最後、いかがわしい催眠術にかかったかのように、渋谷円山町のラブホの並びにある映画館、オーディトリウム渋谷の暗闇に身を包まれながら、画面にひきつけられてしまって、プロローグの最後まで画面に釘付けになって、えっ、これで終わり?いやいや、もっと続きがみたい、と願ってた。
「いままで、テーマ的に軽いものだけ選んでて、今回みたいな水とか緑とかっていうのは相当好きなんで、やりだすとハマるのは目に見えてたから、抑えてた。封印っていうか、やりだすとアタマとか何かがキケンなところまでいっちゃうんで……」と、『水の声を聞く-プロローグ-』の山本政志監督はいう。
 かつての山本作品……八七年の『ロビンソンの庭』で廃墟を湿らせる雨、画面狭しと溢れ出る出る水のヤバい感じは、映像が情報を直接放つ目と耳やその情報を処理する意識にだけでなく、感触を想像力が生んで、肌が忘れずにいる。まだ完成していない、九一年撮影開始の『熊楠』の断片で、揺れる緑のリズムや生命力は、登場人物を演じる役者たち以上にエロチックに観客と交感を迫るかのようだった。そんな山本映画が、現代のデジタル機材を駆使して再始動をはじめた!
 若く美しい娘、ミンジョンは、新大久保のコリアンタウンで新興宗教団体のシンバン=巫女をしている。彼女の元をおとずれる、様々な苦悩を背負った人々に、水と緑からのメッセージを伝える。傷ついた魂に水の声は、届くのか?
 ミンジョンを演じるのは、玄里(ヒョンリと読む。NHK大河ドラマ「八重の桜」に西郷由布役で出演。1986年生まれ。血液型B型。日本語、韓国語、中国語、英語を話す)。韓国の民族衣装を身にまとい、長い黒髪をおろし、清楚な姿で巫女を演じる場面があるかと思えば、四つ打ちのバスドラムが喧しく響く夜の遊び場でギャル系女子たちにまじって甘味のカクテルで乾杯して歓談する場面があったりして、その多面的な姿にどきりとする。
 彼女は言う。「山本監督を知ったのは、NYで映画祭があったときに(中略)結構エッジの効いた作品を上映している方たちがいて、今後の日本の監督で『このひと!』っていう監督はいますか?って聞いたら、一番最初に名前が挙がったのが山本監督だったんですよ」それを受けて、彼女がいたからこの映画が生まれた、と山本監督は言う。「彼女がいたから、こういうことやりたい、ってひらめいてきちゃったから。新大久保も撮りたかったし。自分のやりたい題材のほうにいくなあ、って。」
 水だけではない。この映画の中で山本監督の傍らのカメラの先にあるるさまざまなものが、日頃とは違った姿をみせてゆく。森の中の樹木が緑の葉から光を透かすさまが鋭く迫ってくる。新宿の街が憂鬱を内包した都市として、禍々しく映し出される。歌舞伎町の外国人が経営する食料品店が、見知らぬアジアの都市の市場の一角のように変貌する。
 いま見ることができるのは、ドラマの上ではプロローグだけだけれど、物語りとは別に感受できるものがたくさんあって、もっと凄くなるであろうこの映画の完成に、おもわず、想いを馳せてしまった。
 小学校の頃、校門のまえにカラーひよこを売りに来るおやっさんがいて、口八丁手八丁、小学生にふっかけてた。まるであのおやっさんみたいに、ここまでずいぶん吹いてしまったけれど、たったプロローグを見ただけで、こんなに吹きたくなる映画ってめったにないです。マジで。

★発言はオーディトリウム渋谷にて4月6日に行われた「村上淳さん×玄里さん×山本政志監督 トークショー」より抜粋。 下のアドレスでユーストリームのアーカイヴを鑑賞可能!
http://www.ustream.tv/recorded/30956591

参考:
山本政志×玄里×村上淳トークショー
http://d.hatena.ne.jp/cinemaimpact/20130407/1365359101
玄里インタビュー
http://d.hatena.ne.jp/cinemaimpact/20130408/1365446276

『水の声を聞く-プロローグ-』は、今年完成予定の長編映画の導入部として、シネマインパクト最後の15本目として製作されました。
4月15日(月)と4月18日(木)の2回上映(各日21時より)があります。
お見逃しなく!

オーディトリウム渋谷
http://a-shibuya.jp/archives/5405
シネマインパク
http://www.cinemaimpact.net/