ロケハン

清水ゆう
(『恋の渦』制作スタッフ)


監督が何を見ていて何を思っていたか
想像しても少しもそこには至らないけど
監督に会ってからずっと
そればかり考えているように思う
言葉が多くないから
すこしの言葉からたくさんを拾おうと思った

同じ時間を過ごすことがものをいうことを信じて
ロケハンで一緒に歩いた
本当にたくさん歩かせた
軽い登山くらいだとおっしゃっていた
一緒に電車に乗った
隣の席に座って資料を横からのぞいた
何を手に取るか見ていた
リュックについていたバッチが好きなミュージシャンのものだった
関係ない話を少しだけした

役柄のファッションについても既に詳しかった
その分野の雑誌も知っていたし
どんなところにそういう人たちがいてそういう服が売っているのかとか
街にいる人やショーウィンドウを通りすぎながら今年はこの色がきてるとか
身近に資料があるのを見逃していることに
監督のアンテナにはっとした

どしゃぶりで靴の中までびしょびしょになった帰り道
駅までタクシーに乗せてくれた
なにもわからないできないわたしをみかねて
資料になる写真の撮り方を教えてくれた

制作スタッフとかいいながら
監督の仕事を増やしてばかりだったな

あの期間監督が思っていたことは
『恋の渦』を映画化する
だと思う

ロケ候補地に着いた時
いろんな方向からいろんなものをじっと見て
やっぱりだまって考えていた
しーんとしていたあの時間にどれくらいのことを考えていたんだろう
その答えが全て作品で見られると思う

映画『恋の渦』が出来上がった
これを作っていた時の監督に会いに、見にきてください。