かけがえのない体験

甘利類
(『集まった人たち』制作スタッフ)

いまおかしんじ作品の登場人物たちは、ほぼすべからく貧乏で、友だちが少なそうで、みじめな日常生活にウンザリしつつ、それ故に他者の肌を切実に求めずにはいられない孤独者たちだ。
そんなあまりに身につまされるチッポケでヒサンな人たちのドラマなのに、いまおかさんの映画にはいつも軽やかな驚きと優しさがある。どうしようもない人生だけど、まぁとりあえず生きていてやろうかなと素直に観る人に思わせる力がある。
これは、少なくとも僕にとって唯一無二のかけがえのないものだ。どうしたらこんな映画撮れるのだろう。ずっと考えていた。
2年間通った映画学校の最後の授業をサボっていまおかしんじ特集を観に行ってしまった、どうしようもない僕が、だからシネマ☆インパクトのスタートを告げるチラシの講師ラインナップにいまおかさんの名前を発見したときは本当に嬉しかった。その日から受講料のためにちょっとずつ貯金することを決意した。(貯めても生活に困ってつかってしまい、結局親に借金したのだが)。
それから約一年後の2012年10月16日から約2週間のワークショップの詳しい様子や、撮影中に起こったトラブル等についてはいまおかさんのインタビューや他の人のブログを参考にしてほしい。
『集まった人たち』は、文字通りワークショップに集まった人たちのエチュードを基にエピソードや台詞が生まれた。普段の映画制作ではやらない、役者さんたちの繰り返しのエチュードを通して生まれてくる新鮮な驚きやおかしさをシナリオに取り込んでいくことに、いまおかさん自身もよろこびを覚えていることが傍目から見ていても伝わってきて、僕もワクワクした。
結果、いろんな人たちのアイディアが生かされていながら、どこを切ってもあまりにいまおかさん的な登場人物たちが総登場する不思議な群像劇が生まれた。
いまおかさんの撮影スタイルは、現場の状況に臨機応変に対応しつつ、役者さんにアイディアを出してもらったりしながらどうしたら芝居が面白くなるかを現場でも妥協なく探求する。今まさに映画が作られているという緊張感と、いまおかさんの人柄から生まれる独特のほんわかした雰囲気が絶妙で、そんなところも含めてプロの演出家としてのいまおかさんのしたたかさを見る思いがした。煙草の吸い方やOKテイクを出すときのガッツポーズまでいちいちカッコよくて痺れた。憧れた。
ふと、いまおかさんが神代辰巳の現場についたときにもこんな風な感じだったのかな、と思ったりした。
撮影現場にいることにこんなに喜びを感じたのは、もしかしたら初めての経験かもしれない。
シナリオはエチュードを基に、いまおかさんが一日で書きあげたものだけど、その勢いゆえにいまおか作品のエッセンスがダイレクトにそこかしこに出てくることに注目してほしい。
個人的には、この次にいまおかさんが撮る傑作『星の長い一日』の異様なテンションと充実も、この『集まった人たち』があったからこそなんじゃないかなと密かに思っている。(テーマ的にもシンクロするところあり)
そんな重要な作品に関われたことが、掛け値なく嬉しい。